書評

書評|FIRE 最強のリタイア術(2020年/クリスティー・シェン/ダイヤモンド社)

FIRE(Financial Independence, Retire Early)という言葉が流行して久しく、2022年にはFIRE卒業なんてようわからん言葉まで飛び出しております。

そんなFIRE関連の書籍として、何かと話題だったので読んでみました。

全ての支出は平等ではない

より多くのモノを所有するほど、人はより不幸になり、よりストレスを抱えるということです。逆に、より少ないモノを所有し、旅行や新たなスキルの習得など経験によりお金を使うほど、人はより幸福になり、より人生に満足するのです。

FIREとは無関係な文脈になりますが、印象的だったフレーズ。

モノよりコトにお金を使った方が、幸せを感じやすいってヤツですね。

カエル
カエル
幸せをお金で買う5つの授業でも書かれていたね!

関連して興味深かったのは、切り詰めて不幸になる支出と不幸にならない支出があるという考え方。

切り詰めて不幸になる支出

例えば、コーヒー代、外食、交友費など。

個々人のライフスタイルなどによって大きく変わるため、一概にコレ!とは挙げにくいものの、本著では「切り詰めて不幸になる支出はクソくらえ!」とバッサリ切り捨てられています。

「大好物が食べられないなら、長生きなんてしたくありません」

切り詰めても不幸にならない支出

例えば、銀行の手数料や固定費(光熱費や通信費等)が挙げられます。

スマートフォンを格安SIMで契約したり、電力会社を割安な事業者で契約することで、支出は切り詰めることができますが、生活の質は大きく変わりません。

全ての節約に痛みを伴うわけではないので、個々のライフスタイルに合わせて気負わず節約していこうぜ!というメッセージが印象的でした。こういうアプローチで支出の見直しについて説明する本ってあんまりなかった気がします。

4%ルールとその補填策

画期的だったのが、4%ルール。

トリニティ大学の論文を基にした考え方です。

具体的には、ポートフォリオの4%の資金で1年間の生活費を賄えれば、貯蓄が30年以上持続する可能性が95%あるというものです。

つまり、年間生活費÷0.04=必要なポートフォリオの金額となります。

カエル
カエル
  今の生活水準なら年に360万円ほど必要だから、必要額は9,000万円か…!
でも、これって65歳でリタイアした人向けの研究なんでしょ?

4%ルールの脆弱性は、次の5つのプランでリカバリ可能と唱えられています。

1.現金クッション

いわゆる生活防衛資金ってやつですね。

生活防衛資金の考え方は書籍や個々人の考え方によってマチマチですが、本著の著者はかなり用心深いため、5年分の生活費があればOKとしています。

なんで5年分なんだろう?

5年分の根拠は、過去の株式市場(おそらく米国市場)が暴落から立ち直るのにどれくらいかかったか調べてみた結果、市場最悪のケース(世界恐慌)時に5年かかったということでした。

ちなみに、年数の中央値は2年であり、これはリーマンショック時も同様だったとのことです。

カエル
カエル
僕はFIREを前提としていないので、1年分(失職しても次の食い扶持を見つけられるだろう期間)の生活費を生活防衛資金にしています

もちろん、現金クッションは金利の高い口座に入れておくことがポイントです。

2.利回りシールド

現金クッションの理屈で言うと「年間生活費×5年分」の現金が必要となります。

なかなかデカい額ですよね。

ということで、分配金・配当金を活用して現金クッションを補填するのが利回りシールドです。

利回りシールドを組み入れた計算式は、次のようになります。

「現金クッション=(年間生活費ー年間の配当金・分配金)×年数」

また、利回りシールドの確保にあたっては、一時的にポートフォリオの資産の中心を高利回り資産に置き換える必要があるということです。

「一時的」というのは、基本的にはポートフォリオは低コストのインデックスファンドで構成することが理想(それがトリニティ大学の研究の前提)であるため、FIRE初期の5年間は高利回り資産で運用しても良い、ということでした。

なお、本著の著者はかなり用心深いため、利回りシールドの構成は高配当株・REIT・社債に連動するETFの購入を推奨しており、個別銘柄の購入は一切推奨せずでした。

投資に正解はないと言われますが、本当に個々人のライフスタイルに大きく依るなあと感じました。極力働かないぜ!というスタンスを貫くには、一社(個別銘柄)への投資は許容リスクを超えるんでしょうね。

3.地理的アービトラージ(裁定取引)

生活費の安い場所で暮らすこと。

この考え方は生活する場所を選ばないFIREには重要だったようで、世界旅行をするうえでは、物価の安い地域(東南アジアや東欧など)と高い地域(イギリスや西欧など)を組み合わせると、債権と株式を組み合わせたポートフォリオのように費用を均してくれるそうです。

なかなかダイナミックな考え方だな!

なので、4%ルールが崩れそうな時には極力生活費の安い場所で暮らし、生活費自体を抑えるという「地理的アービトラージ(裁定取引=価格差を利用して利益を出す手法)」がリスクヘッジとして挙げられています。

本著は2020年3月に発行されたので、おそらく執筆中は新型コロナウイルスによる感染症リスクは織り込まれていなかったものと思われます。

ただ、この考え方は日本でも通用しそうで、東京と地方(もちろん、地方にもよりますが)で生活費は多少なりとも変わるんじゃないかなと感じています。

4.サイドハッスル(副業)

これはオマケ。副業による収入は、雀の涙でもないよりマシとか。

5.パートタイムで仕事に復帰する

これもオマケ。結局働くんかい!

4%ルールの妥当性は常にチェックすること

4%ルールも万能ではないので、支出の増加やポートフォリオの暴落などで前提が崩れることがあります。

なので、年初にポートフォリオの金額と見込み支出額を照らし合わせて、上述1〜5のリカバリ策でどの程度カバーできるのかを常にチェックすることが肝要になります。

で、僕はFIREしたいのか?

読み終わって改めて感じましたが、答えはNOです。

FI(Financial Independence)はしたいですが、RE(Retire Early)は今のところ別にいいかな。

(人間関係や経営状況の危うさはさておき)現職が気に入っているのでしばらくは勤め人で過ごしていきたいと思います。

そのうちFIした暁には、もっと自由な働き方を視野に入れてもいいかなと考えています。